真人間を目指すためのログ

その日したこと、観たもの、読んだもの等の記録

(2020/07/26)

 映画『マトリックス』から派生した、「ブルーピル」および「レッドピル」*1というインセルおよびalt-rightでよく使われるミームがある。それでふと思い出したのは映画『電車男』の主人公がヒロインのエルメスに好きな映画は何かと問われそのときに薦める映画がマトリックスであり、電車男はどうせ夢落ちにするならマトリックスみたいにどちらのピルを飲むか選択する話にすれば面白かったのにと想像したのだった。しかし検索してみると電車男の最後は夢落ちではないと言っている人もいて、はてどうだっただろうと気になったのでわざわざDVDを借りることにした。
 今さら全編は見なかったが、さすがに今の時代からするとオタク的内容に恥ずかしさがある。それはそうと確認してみたところ、夢落ちが意図されていないというのは無理がある、というのがその答えだ。電車内でエルメスが落とした定期入れを主人公が拾おうとするシーン、そこで急に切り替わり過去と同じ場面に接続されるのは夢落ち的な演出そのもので、おはなしは元通りの世界に戻りましたというものだ。あれは回想だという意見があったがそうだとすれば何故いきなり最後に回想を入れそのままエンディングまで持っていったのかと問わざるを得なくなり、どうしても不自然である。しかしよりによって何故夢落ちなんかにしたのか、あのまま普通に終わらせることもできたはずだ。そもそも2ちゃんねる発の電車男という話自体が実話であるとするには怪しいもので、映画をああいった結末にしたのはこの話を実話とし願望の入った物語にすることへのためらい、さえない男が高嶺の花である女性と交際しうまくいくという、そうした夢を見させないための措置なのではないかと初めて観たときには感じたのである*2。しかし問題なのは主人公をネクラで冴えなく、常に卑屈で、だが好きなものの話題になれば饒舌になり薀蓄をかますというあまりにもオタクのステレオタイプ像に描いてしまったことで、それはヒロインのエルメスも同様で特に面白みのないお嬢様像そのものである。最後主人公はエルメスの抱擁を受け、自分に自信がなくてということを言うのだが、極めて卑屈なオタクとそれをわかって慰めるヒロインという構図で、あれがよくない。ストーリー自体が紋切り型であり、夢落ちという落ちもそのテンプレの延長上に出てきてしまう気がするのだ。
 マトリックスとの関連に戻っていうと、電車男が拾うエルメスの定期入れが赤色だったことから*3電車男はレッドピルのほうを選び、目覚めた先の現実は電車男のアンチとして書かれた本田透の『電波男』だったりするのだろうか。(こういった図像の一致を見る解釈はあまりいいものではなく、もちろん冗談である)
 ではどうすればいいのか。ヒロインが言う「好きな映画はなんですか?」という質問に対しマトリックスなどと答えたのがいけなかった。これは現実のわれわれにおいても好きな映画を訊かれるという、素朴な、だが極めて答えにくい質問に対する対処法でもあり、そのようなときは『ムカデ人間』または『トーク・トゥ・ハー』と答え、これらの映画を強引に見せ、相手にこれで引かれなかった場合、〈ぼくに・きみに〉最高のエンディングが待っているはずだ。

*1:マトリックスの主人公ネオはブルーピルを選んで夢を見続けるか、レッドピルを選んで真実に目覚めるか選ばされることになる。

*2:もちろん夢落ちは観客の目を作品内にて覚まさせ、「現実に帰れ」という方法である。

*3:実はうろ覚えであり、確認する前にDVDを返してしまった。