真人間を目指すためのログ

その日したこと、観たもの、読んだもの等の記録

(2020/07/03)

またツタヤのプレミアムに入り映画を借りた。アートな日本映画が見たくなり、検索したところ映画芸術の2019年ベストというランキングがありあの『岬の兄妹』は8位でまさかもっと上があるのかまあないだろうと借りてみようということになった。

『火口のふたり』
映画芸術 2019年ベスト1で、キネマ旬報のベストでも1位になったらしい。期待はしていなかったが男女が話して食事してファックするだけの映画で全部は見通さずにギブアップした。最初のファックシーンが動物的に見えてしまったせいか変な笑いが出てしまった。Amazonで国恥映画とか書かれたレビューがあって笑った。yahoo映画に参考になるレビューがあった。

継続は力なり - ユーザーレビュー - 火口のふたり - 作品 - Yahoo!映画

ピンク映画枠なら『夢の人 ユメノヒト』のほうが遥かによいだろう。本当に、何故セックスを撮るだけで文芸になるのだろう? またこれは「純文学」の問題でもあるかもしれない。

 『半世界』
典型的な悪い行いのある邦画ではおそらくないものの、やはり邦画的なテレビドラマのような作品に感じられ最後まで見なかった。

嵐電』 
これはなかなか。悪い作品ではない。特に前半は結構期待した。タイトル通り京都の嵐電あたりの風景が撮られ、やや変わった映画的手法で日常を描くことでその向こうに神秘やファンタジーを見る作品かと思ったが、すでに話の途中から徐々に映画の軸が変わってくる。沖倉駆行為(唐突で強引なキス)があったためグラスリップを思い出したが、しかしこうした作品の常というか幻想が広がっていくと最後はうやむやになってしまいお茶を濁してしまう(『輪るピングドラム』にもそれを感じる)。その点グラスリップは徹底していたなと改めて思った。

 

千と千尋の神隠し
最近はCOVID19の影響で新作映画が上映できないため映画館が名画座化していて、千と千尋の神隠しもやっていた。何度かされたテレビ放映を断片的に見てはいたがしっかりとは見ていなく、また杉田俊介の『宮崎駿論』を読んだこともあってこの度ちゃんと見てみようとDVDを借りた。千と千尋の神隠しのDVDは画面が「赤い」問題があったのだがおそらく再販版を借りたため赤くはなかった。元のDVDの方はやはり赤い映像になっているのだろうか?
やはり一筋縄ではいかない作品だ。この映画を一番初めに見たときは好きになれず駄作だと思ったのだが、何しろ10歳の千尋が豚になった両親を元に戻すために強制労働させられる話で、全編宮崎駿の説教調が現れているように思い千尋が雑巾を絞るカットなんかもそれだけで説教くさくて嫌だったのだ。だが今になって見直してみると色々と別な面が見えてくる。ジブリの「工場長」である宮崎駿はある面で自己を釜爺や湯婆婆の側に仮託しているようで、このような映画を「ガールフレンド」に向けて作る駿は鬼かと思ったが、芸術家としての宮崎駿はそうした説教爺さんを遥かに超えているし(だからこそある意味残酷でへヴィだといえるが)、後半になるとカオナシやハクの契約の問題など労働とは違ったテーマが入ってくる。
この映画はプロイスラーの小説『クラバート』の影響を受けている。クラバートはやはりつらい労働をする話だが、クラバートの舞台での労働は生きるための当たり前のことだったのに対し、現代を舞台にした千と千尋ではどうしても資本主義や性風俗という別の側面を連想せざるを得ない。しかし油屋は仕事をほったらかしにしてもどこ行ってたんだよと言われるだけで、ブラック企業ではなく宮崎駿がずっと描いている良き共同体としての面がある。ラストはクラバートの試験を模範して少し変えているが、千と千尋のそれはただ儀礼的な儀式というだけでほとんど積極的な意味はなくなっている。それにしても千尋の解放を他の従業員も一緒になって喜ぶのはどうしてだろう? リンはこんな仕事はやめていつか街に出て行くと言い、湯婆婆さえもそれこそグローバル金融資本主義のような肥大化した子供の言いなりだ(あの西洋の城が描かれたキッチュな部屋はなんだろう?)。あの世界で生きて行こうとしたらカオナシのように世界の隅にある銭婆の家に居場所を見出すしかない。
最初に見たときハクは川が擬人化された存在のように思ってしまい、千尋が過去に川に助けられたエピソードも何か取ってつけたように思えたが、そうではなく人間としてのハクの方が本性なのではないか。まあハクは神々の一人なのでそのようにふるまうのは不思議ではない。魔女と契約をするハクはそれこそ人間的で、これは自然を資本に売り渡した話だとも思える。
物語のクライマックスは儀式ではなく、千尋が彼岸へと赴く海渡りにある。「雨が降れば海くらいできる」。冒頭に描かれた街には国道21号の看板があり、舞台を考察しているサイトがあったが(千と千尋の神隠しの謎②~国道21号と「とちの木」のある場所~

)、古代においてその場所は海だったという。まるで『天気の子』みたいな話だ。あとに『崖の上のポニョ』で再度現れるが、すでに千と千尋でも神話的な次元において海が幻視されている。

 

ジブリナウシカもののけ姫ゲド戦記)や他作品で見たいものがあるならなかなかいいのではないか。千と千尋は見てしまったが、他もこの機会に行ってみようかな。